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五感を刺激すること [vivre ma vie]

最近の自身の関心事はと言えば...
”入院している父をどのようにして人間らしい本来の姿に戻せるか”であった。

今年に入ってから病院を2度転院し、その間施設に入所したり移動の多い生活は、
ただでさえ苦痛を伴う身障者1級の身にはつらいことだったと思う。
1年前はまだ自宅で歩行器で歩くことが可能だった父の身体機能は一気に衰え、
病院のベッドで寝ているだけの生活は、どんなに退屈極まりないことだろう。
父が「強かった」と自負していた囲碁や将棋をすることもままならず、
熟読していた新聞や本を勧めても読む気にならないし、テレビも見たくないと言う。

見舞いのたびに父の好物を持参して、それを食べさせてもらうのが
せめてもの愉しみだったろうが、誤嚥を防ぐため食物は限られ、
あるべき形状をとどめていないこともしばしばで、
「こんなの○○ではない」とこぼす始末。
そうか、料理は見た目や匂いでも味わうものなのだと改めて思う。

いつしか父からは笑顔が消えていき、いつも虚ろな表情をしている。
そこであまり気の利く方でない私なりに、一生懸命考えた。
もう一人の要介護者、父の姉である叔母と異なり、父はまだ耳がよい。
CDも持っていたが、自分で録音したカセットテープをたくさん所有していた。
その中から一番好きと思われる吉田拓郎のベストを選び、
この家"Maison Praliné"の元主、亡き叔母(母の姉)が社交ダンスのために愛用していた
カセットデッキを拝借し、病院へ母とともに赴いた。
母には「そんなの無理」と遮られたが、私には何となく確信めいたものがあった。

病室へ入ると、ちょっと重々しい古い型のデッキを設置し、父の耳元にイヤホンを当てた。
ほどなくして父は...
「涙が出てくる」とぽつりと言った。
”やった!成功だ☆感動してくれた♪”
私は心の中で叫び、母は父の目元をぬぐってやった。
「やっぱり拓郎はいいねえ。この歌が一番好き」と『旅の宿』に差しかかった頃、
看護師さんが入って来て、「私たちの青春時代だわ」と言われ、
そのままデッキを置いていってもよいと許諾してくれた。

ほんの些細な出来事だったが、何となく心がじんわりして、
自分よりも人の心を動かすことは難しく、それができた時はより嬉しくなるものだと
つくづく実感した*